Subject : 肺呼吸のしくみ
カテゴリー : 学びの館 > 生物
肺呼吸のしくみ
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呼吸器系の機能は、酸素と二酸化炭素という2種類の気体を交換することです。交換は、肺にある数億の肺胞とそれらを取り囲む毛細血管の間で行われます。吸いこまれた酸素は肺胞から毛細血管内へ移動し、二酸化炭素は毛細血管から肺胞へと移動します。
外気から肺を流れる血液中に酸素を取りこむには、呼吸、拡散、灌流(かんりゅう)という3つの過程が欠かせません。
呼吸は、空気が肺に出入りする過程のことです。
拡散は、体がエネルギーを使ったり努力したりすることなく、肺胞と肺の毛細血管との間で自然に行われているガス交換のことです。
灌流は、心血管系が肺全体にわたって血液を送り出す働きをいいます。
体の血液循環は、酸素を含む空気と酸素を消費する体内の細胞とを結びつけるために欠かせません。
全身の筋肉細胞に酸素を行きわたらせるには、肺だけではなく、酸素を運ぶ血液や、その血液を循環させる心血管系の役割も重要です。
呼吸は自発的に行われていますが、脳幹部にある呼吸中枢によって
潜在意識下でコントロールされています。呼吸は、眠っている間も、
たとえ意識不明になったとしても、止まりません。
脳や大動脈、頸動脈の内部には小さな感知器官があって血液中の成分をチェックしており、酸素の濃度が低くなりすぎたり、二酸化炭素の濃度が高くなりすぎると感知します。健康な人では、二酸化炭素の濃度が高くなると、それが強い刺激となって、呼吸がより深くより速くなります。反対に、血液中の二酸化炭素の濃度が低くなると、呼吸は遅くなります。つまり、呼吸の回数や量は脳からの指令で増減するのです。成人は安静時で、1分間にほぼ15回の呼吸をしています。
横隔膜が収縮すると、胸腔が広がり、内部の圧力が低下します。圧力を等しくするために、空気が肺の中へ流れこみます。横隔膜がゆるむと、肺と胸壁の弾力性で空気が肺から押し出されます。
肺そのものには肺を動かす骨格筋がないので、呼吸は横隔膜、肋骨の間にある筋肉(肋間筋)、頸部、腹部の筋肉によって行われます。横隔膜はドーム状の筋肉の薄い膜で、肺と腹部を仕切っており、息を吸いこむ(吸気)ときに使われる最も重要な筋肉です。横隔膜は、胸骨、肋骨、脊椎からなる骨のケースの底部にくっついています。横隔膜が収縮すると胸腔が広がり、肺がふくらみます。肋間筋は肋骨を動きやすくし、呼吸をしやすくします。呼吸で使われる筋肉はすべて、筋肉につながる脳からの神経が傷害されない限り収縮します。首や背中の外傷によって脊髄(せきずい)が傷つくと、人工呼吸器なしでは生きられなくなります。
息を吐く(呼気)過程は、運動中でない限りほとんど目立ちません。肺や胸壁の弾力性で蓄えられたエネルギーが、肺から空気を送り出すために使われます。そのため、安静時には呼吸にかかわる筋肉を動かす必要がないのです。しかし激しい運動中は、息を吐くために多くの筋肉の助けを必要とします。腹筋は、中でも最も重要な筋肉です。腹筋が収縮すると腹圧が増し、ゆるんだ横隔膜を肺の方へ持ち上げて、空気を肺から押し出します。
- ● 肺の防御機構
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日中、中等度の活動をしている人は、1日に約2万リットルの空気を呼吸しています。当然ながら、こうして吸いこんだ空気は重さ20キログラム以上あり、そこには有毒な粒子やガスが含まれています。粒子としてはほこりやばい煙、カビ、真菌、細菌、ウイルスなどがあり、これらはすべて、まず気道や肺胞の表面に付着します。幸いなことに、呼吸器系はこれらの侵入を防ぐ防御機構を備えています。
防御機構の1つに、気道の表面に並んでいる小さな筋肉の突起(線毛)があります。気道の内部は、線毛によって動く粘液の層で覆われています。線毛は1分間に1000回以上動き、気管の内側を覆う粘液層を1分間に約0.5?1センチメートル動かします。この粘液層に捕らわれた粒子やさまざまな病原体は口腔へと戻され、食道へと飲みこまれます。
ガス交換の必要があるため、肺胞は粘液層や線毛によって保護されていません。粘液層は厚く、酸素と二酸化炭素の移動を妨げます。その代わり、肺胞には別の防御機構が備わっています。食細胞という肺胞表面を移動できる細胞は、粒子が集まった沈着物を探しあて、それらと結合したり、取りこんだり、生きているものは殺して消化します。肺にある食細胞は、肺胞マクロファージと呼ばれています。肺が重度の危険にさらされると、好中球など、血液中を循環している白血球もこれを助けるために集まってきます。つまり、大量のほこりを吸いこんだり呼吸器感染症にかかっているときには、多くのマクロファージが体内でつくられ、好中球が肺胞に集まってきます。
呼吸器系も、他の器官と同様、加齢によって機能が徐々に低下してきます。加齢に伴う肺の変化には、肺の防御機構の低下だけではなく、最大呼吸量、ガス交換量、肺活量(空気を最大限に吸いこんでから、吐き出すことのできる空気の量)などの低下があります。タバコを吸わない人では、こうした加齢による変化によって、何らかの身体的な症状が出ることはめったにありません。しかし、タバコを吸う人や、以前吸っていて肺気腫のある人では、加齢とともに息切れ症状がひどくなります。
加齢とともに、横隔膜などの呼吸器系の筋肉は弱くなります。健康な高齢者であれば、こうした筋力の低下はあまり問題ではありません。しかし、細菌性肺炎などにかかった高齢者にとっては、この筋力の低下は重大な問題です。それは、肺炎によって呼吸に必要な筋力がさらに低下するからです。骨格筋などの呼吸器系の筋肉は、高齢者であっても鍛える効果があります。日常的な運動や呼吸器系の筋肉を強化するような運動によって、呼吸をよりスムーズにすることは可能です。
加齢に伴う肺の構造や機能の変化は、高齢者にさまざまな影響を及ぼします。高齢者は激しい運動、中でもランニングやサイクリング、山登りといった特に激しい有酸素運動を行うことが難しくなります。さらに、細菌やウイルスへの感染から肺炎へと悪化する危険性が高くなります。最も重大な影響は、加齢によって生じる肺の変化が、その人がもともともっていた他の心臓や肺の病気を悪化させることです。中でも、喫煙の有害作用によって生じた病気は悪化します。
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呼吸器系
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