Subject   : 薄膜作製技術

カテゴリー  : 学術情報 > 材料 


 薄膜作製技術
物質の表面に他の物質をコーティングするこという技術は、電解メッキなどの方法で 古くから行われています。 コーティングという方法により、既存の材料の特徴を活かしながら既存の材料には 無い新規な特性を表面に付与することができます。

近年では科学技術の進歩とともに材料に対する要求も多様化しており、表面特性に 影響を与えるコーティング膜の組成や構造を制御できる真空中での成膜プロセスが 重要な役割を担っています。
一般に真空での成膜プロセスは化学気相法(CVD:chemical vapor deposition)と 物理蒸着法(PVD: physical Vapor deposition)に大別されます。 しかし、これらの方法も化学的手法を用いながらプラズマを併用するなど,近年では 複合化が進み、名称が意味するような明確な区別は薄れてきているのが現状のようです。
イオンビームアシストは,PVD法の基本的技術である真空蒸着法とイオン注入法を組み合わせた 複合技術です。

● 真空蒸着
真空蒸着の原理は蒸発現象を利用した単純なもので、真空中で金属を加熱することにより 蒸発させ試料基板に付着させます。身近な現象で言えば、水が沸騰し蒸気となりガラスなどに 付着し曇らせる状態と同じです。水の場合にはこの現象が1気圧下で起きますが、水銀などを 除けば金属蒸気を作るにためには周りの圧力を低くする必要があります。
真空蒸着法は最も一般的な薄膜作製法で、欧米では太平洋戦争前からレンズの反射防止膜を作製するために用いられたといわれています。
また、蒸着金属の加熱方式にも幾つかの種類が存在し、抵抗加熱や電子ビーム加熱が一般的でありますが、最近ではレーザー加熱やホローカソードを用いた方法も使われています。抵抗加熱はタングステンフィラメントからなるヒーターにより直接金属を加熱する方式です。これに対して電子ビーム加熱は加速した電子を金属に照射し溶融させる方式で抵抗加熱に比べ不純物が混入しにくく、高融点の金属や酸化物にも応用できる利点があり広く用いられています。
● スパッタリング
物質(ターゲット)の表面にエネルギー粒子(一般にはイオン)を照射すると、そこからターゲット原子が飛び出します。これをスパッタリング現象といいます。砂利の中に石を投げ込むと、砂利が飛び散るイメージと似ています。スパッタリング現象によって飛び出した原子を基板に堆積させれば薄膜となります。従って真空蒸着のよう熱エネルギーによって金属を溶融し蒸発させる方法とは全く異なり、運動エネルギーを使って原子を飛ばします。真空蒸着に比べて成膜速度は劣りますが、スパッタリングの場合は真空蒸着のように溶融という過程を経ないため、高融点材料もターゲットに用いることが可能です。また、従来は金属などの導電物しかターゲットに用いることができない直流電源を使ったDCスパッタリングが主流でしたが、高周波電源を用いるRFスパッタリングでは金属のみならずセラミクスのような絶縁物もスパッタリングできます。
● イオンビームアシスト
薄膜形成においてイオンビームを使う主な理由は次の2つの効果からです.1つは半導体の不純物注入に代表されるような元素の添加,もう1つは加速イオンによるエネルギー輸送です.前者はイオンビームミキシングやダイナミックイオンミキシングのように反応性元素をイオンとして添加し薄膜を作製します.アシストという意味では,イオンビームにArやHeなどの不活性ガスを用いた後者のエネルギー付与のイメージが強いと言えます.ただし広義の意味では,イオンビームを用いた手法を先に述べたようにIBAD法,すなわちイオンビームアシスト法として表現することが多いようです. 膜形成初期段階では加速したイオンにより基板面にたどり着いた蒸着原子が衝撃を受けます.この際,蒸着原子の一部はスパッタにより真空中に放出され,一部はイオンとの弾性衝突によりエネルギーを受けとり基板中にノックオンされます.基板と薄膜界面には基板原子と蒸着原子の混合層(ミキシング層)が形成され.基板へ侵入した蒸着原子をアンカーとして薄膜が形成されると,基板にくさびを打つような構造となり,薄膜は強い付着力を得ることができます.ミキシング層形成後は,蒸着速度,イオンエネルギー及び照射量をコントロールすることで目的の薄膜を作製します.イオンに反応性ガスを用いれば当然のことながらイオンも薄膜の構成元素となり,不活性ガスであればイオンは薄膜中に存在しにくく,薄膜は蒸着元素で構成されます.
イオン注入法は半導体への適用段階から,高輝度イオン源の開発などにより鋼を対象とした表面処理手法の一つとして利用されるようになってきました。イオン注入法が表面処理分野に取り入れられたことで様々な研究が行われたが,大型の高電圧加速装置を用いても改質領域(注入層)が表面から1μm以下に限られるなど限界がありました.そのため,表面に大きな応力がかかるような製品への適用には,イオン注入法は適さないことが多いため、イオン注入法の特徴を活かすと同時に欠点をも補う形で真空蒸着法とイオン注入法を組み合わせて膜成長させる手法が考えられました.最初の報告は1970年代初頭Aisenbergらによってなされ,その後佐藤らによりIon and vapor deposition法と称され,さらに研究が盛んになるとIon beam enhanced deposition、 Ion-assisted vapor depositionと呼ばれてきてきましたが,最近ではIBAD (Ion beam assisted deposition)という名称が固定してきたようです.この手法の長所は成膜初期における膜と基板とのミキシングによる付着力の向上と,イオンと蒸着物質のミキシングによる物質合成であり,TiNをはじめとしてAlN,BNなど様々な物質が作られ,この手法を用いたTiNについては商品化もなされています.


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