Subject   : 老化のメカニズム

カテゴリー  : 学術情報 > 生理学 


 老化のメカニズム
 どうして生体に老化が起きるのかという問題は、今でも生物学の最大のなぞの1つです。

 老化の時間を刻むタイマーとして最近注目されているのがテロメアです。 ヒトの細胞の中には48種類の染色体がありますが、その染色体それぞれの 末端にテロメアという構造があります。 例えば、縄は、端からほどけないように別のひもで縛ったり、金属や接着剤などで固定したりします。テロメアも同様に、細くて長い染色体が端から壊れないようにと、端を固定して遺伝子の安定化を図っています。このテロメアは、細胞が分裂するごとに一定量短くなり、ある程度短くなると細胞そのものが分裂できなくなり、そして寿命を迎えるのです。テロメアはいわば分裂のための回数券といえます。実は、生体にはこのテロメアを修復する酵素、テロメラーゼがあるのです。  不死の細胞である生殖細胞とがん細胞では、このテロメラーゼが働いて、テロメアは常に一定量確保されるのです。このため永久に細胞分裂が可能なのです。一方、普通の体細胞ではテロメラーゼは働いていません。もし、体細胞でもこのように、回数券を節約したり修復したりする方法が見つかれば、老化を防止することも夢ではなくなります。

老化は細胞数の減少だけでなく、個々の細胞の機能低下でも説明できます。 機能低下を説明する代表が活性酸素説です。強い酸化作用があるフリーラジカルや活性酸素がたんぱく質や遺伝子に傷害を与え、その傷害が積み重なって老化が進むという考えです。確かに、皮膚の老化は紫外線によって加速されます。これを「光老化」といいます。また、動脈硬化も活性酸素が脂質を過酸化脂質に変えることで進行します。 ヒトの体内には、フリーラジカルや活性酸素を無毒化する酵素がきちんとあります。また、食品中のビタミンCやEなどにも抗酸化作用があります。このため、老化防止というと、この抗酸化作用をいかにうまく利用できるかが一つのポイントとなっています。このため、日焼け止めクリームなどで紫外線をできるだけ直接浴びないようにすることや、ビタミンCやEを多く含む緑黄色野菜を多くとることなどが推奨されるのです。1998年に、ハエにSOD(スーパーオキサイドディムスターゼ)など抗酸化酵素の遺伝子を組み込んだところ寿命が2、3割延びたという研究成果が「サイエンス」という科学誌に発表されました。線虫でも似たような研究成果が報告されており、活性酸素が老化に関係していることはほぼ間違いないようです。

生命の基本的骨格はすべてDNAに記載されています。老化の道筋もきっとこの中にあるに違いありません。そこで、人の寿命を決定している遺伝子を探す研究が世界的に行われています。早老症ウエルナー症候群という遺伝性の病気があります。20歳代で白髪のしわの多い顔となり、動脈硬化や骨粗しょう症の老化現象が顕著となり、だいたい40歳代で亡くなる病気です。この病気が、DNAの組み替えに関与するDNAヘリカーゼという酵素の異常で起きていることが最近分かりました。  このほかにも、早老症にはコケーン症候群などいろいろあり、さまざまな遺伝子が老化にかかわっていることが推測されます。早老症という病気があるならば長寿症という病気(?)があってもいいような気もしますが、どうもそれはないようです。自然界はいわば巨大な実験場です。そこで長寿症が出てこないというのだから、遺伝子を操作して人間をより長寿にするということはかなり難しいことなのでしょう。でも、線虫などの下等生物レベルなら、遺伝子を操作して長寿を実現したという研究報告がいくつかあります。

 以上のことから、老化現象は、テロメア、活性酸素、遺伝子などが複雑にからみあって起こっていると考えた方がよさそうです。

 ⇒ 老化現象

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