Subject   : 細胞周期のチェックポイント

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 細胞周期のチェックポイント
細胞周期のチェックポイントの概念は、「細胞周期では,後のイベントの開始は前のイベントの完了を待って実施される。前のイベントが終了するまでは,後のイベントには負のフィードバックがかかる。」(Hartwell, 1989年)

■ G1からS期への移行の制御 (G1チェックポイントの分子機構)
 G1期の通過とS期への移行はサイクリンD-CDK4とサイクリンE-CDK2複合体が制御している。 増殖刺激によりサイクリンDが合成され,CDK4と結合する。複合体はCAKによりリン酸化され活性化され,次いでRbタンパク質をリン酸化する。Rbがリン酸化されると結合している転写因子E2Fが離れ,サイクリンEなどのS期進行やDNA複製に必要な遺伝子群の発現が誘導される。サイクリンEはCDK2に結合してRbをさらに活性化して自らの発現を亢進するとともに,p27Kip1(CKIの1つ)をリン酸化してその分解を促進する。これらにより,S期への進行が実現する。幾つかの段階で,CKIはS期への移行を抑制する。S期に入るとサイクリンEはユビキチン-プロテアソーム系*で分解される。 *サイクリン-CDK複合体の活性は,サイクリンやCKIの分解によっても調節される。この分解はプロテアソームによるユビキチン依存性のものである。G1/S期サイクリンやp27Kip1の分解に関わるE3はSCF(Skp1-Cul1-F-boxタンパク質から成る複合体)である。 F-boxタンパク質が標的を認識する。

 ○ Rbタンパク質とは
 網膜芽細胞腫(retinoblastoma)の原因遺伝子RB産物である。ヒトRbは928残基から成り (110 kDa),遺伝子(200 kb)は27エクソンから成る。ガン抑制遺伝子の1つである。  細胞周期のG1期にはリン酸化されていないが,S期になる直前で多数のリン酸化を受ける。細胞内では転写因子E2F‐1

 ○  E2F:転写因子
ロイシンジッパー構造をもち,TTTCGCGCに結合する転写因子。DP1/2とヘテロ二量体を形成して存在する。E2F-1〜6がある。

■ M期への移行の制御(G2/Mチェックポイントの分子機構)
 M期の開始は上で述べたMPF (Cdc2とサイクリンBの複合体)によって制御されている。Cdc2(CDK1)のキナーゼ活性は,Thr14, Tyr15, Thr161のリン酸化の状態によって調節される。すなわち,Thr161だけがリン酸化されている状態が活性型で,3つの残基が全てリン酸化または脱リン酸化された状態は不活性である。
 サイクリンBがS期で合成されCdc2と複合体(MPF)を形成する。このときCdc2は脱リン酸化型なので,MPFは不活性である。G2期に入ると,Cdc2は3種のキナーゼでリン酸化される(Myt1がThr14をリン酸化,Wee1がTyr15をリン酸化,CAKがThr161をリン酸化する)。この高リン酸化型Cdc2も不活性である。サイクリンB-Cdc2複合体はG2期には主として細胞質に存在し,G2期終了時に核に移行する。  次に,タンパク質チロシンホスファターゼCdc25 (ヒトでは25A, 25B, 25Cがある)がCdc2のThr14, Tyr15を脱リン酸化すると,複合体は活性型MPFに変換され,これがCdc25Cをさらに活性化する一方で,Myt1とWee1をリン酸化して不活性型に変えて再び不活性化されるのを防ぐ。MPFは核膜の裏打ちタンパク質ラミンをリン酸化して脱重合させ,核膜の崩壊を導く。これにより,細胞周期はM期へ進行する。Cdc25の活性はタンパク質ホスファターゼPP2Aによって,調節される。

 ○ M期サイクリンの分解
M期サイクリンを分解してM期脱出に関わるE3はAPC/C (anaphase-promoting complexあるいはcyclosome)と呼ばれる。

 ○ タンパク質(Ser/Thr)脱リン酸化酵素(protein phosphatases, PP)
 PP1, PP2A, PP2B, PP2Cが知られている。PP2Aはヘテロ二量体または三量体。a,bの2つのイソフォームがある。二量体は触媒サブユニットCと調節サブユニットAから成り,三量体ではこれにBファミリータンパク質であるB(PR55), B’(B56), B’’(PR72)が結合。Bファミリーにはa, b, gの3つのイソフォームや多くのスプライス異性体がある。

■ 紡錘体形成チェックポイント
 細胞分裂中期までは,姉妹染色分体はコヒーシンによって架橋され合着 (cohesion)している。コヒーシン(cohesin)は,染色分体にアンカーするSmc1/Smc3と,その間を架橋するScc1/Scc3から成っている。  一方,セパリン(separin)にはセキュリン(securin)が結合してその機能が抑制されている。染色体の分離は,先ずセキュリンがCdc20依存的にAPC/Cを介してユビキチン化され,プロテアソームで分解されることで開始される。セキュリンの分解で遊離したセパリンが,コヒーシンの成分であるScc1/3を分解する。この結果,染色体の分離が起こる。

 細胞分裂中期において,姉妹染色分体が紡錘体赤道面に並列していないなどの異常があるとセンサーが認識し,チェックポイント機構が発動される。

異常の例:
染色体セントロメア上のキネトコアへの紡錘体微小管の結合不完全。 姉妹染色体の両側にある微小管の間の張力の不均衡。  キネトコアのキネシン様タンパク質CENP-Eがセンサーとして働き,この異常をBub1がキネトコア上でMad2に伝達。活性化Mad2はCdc20に結合し,そのAPC/C活性化能を抑制。その結果,セキュリンのタンパク質分解が抑制され,染色体の分離が妨げられる。その結果,合着が保たれ,分裂中期がそのまま維持され,染色体の異常な分配を阻止。

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