Subject  : ペスト

カテゴリー: 健康・医療情報 


 ペスト
ペストはグラム陰性菌のペスト菌によって起こる重い感染症です。

ペストを起こす細菌は、主にネズミ、リス、プレーリードッグのような野生のげっ歯類に感染します。過去には、中世の黒死病などペストが大規模に発生し、多くの死者が出た時代がありました。ネズミがはびこり、衛生状態が悪かったことが、あのような大流行の主な要因でした。最近の発生例は、単独ないし少人数に限られています。
ペストを引き起こす細菌は、たいていの場合、感染動物からノミを介して人に感染します。さらに、せきやくしゃみなどで細菌をまき散らす飛沫(ひまつ)感染で、人から人へ広がります。ネコなどのペットについているノミがうつったり、菌の入った唾液がまき散らされたのを吸いこんだりして感染することもあります。

 【症状と診断】
ペストには、腺ペスト、肺ペスト、敗血症ペスト、軽症ペストなどの種類があります。症状も病気の型によって違います。

腺ペストの症状は、一般的には菌と接触した2〜5日後に現れますが、数時間後に現れることもあれば、12日ほどたってから現れることもあります。突然の悪寒と約41℃に達する高熱で始まります。心拍は速くかつ弱くなり、血圧が下がることもあります。発熱する直前、あるいは発熱とともに、太ももの付け根、わきの下、首などのリンパ節が腫れます。腫れたリンパ節は硬く、押すと非常に痛いのが特徴です。その上の皮膚はすべすべして赤くなりますが、熱はもちません。患者は落ち着きがなくなり(不穏状態)、せん妄状態になり、錯乱したり、体の動きの協調がうまく取れなくなります。脾臓や肝臓が触診ですぐにわかるほど腫大することもあります。リンパ節には膿がたまり、2週目に自然に破れます。治療を受けないと60%以上が死亡します。死亡例の大半は3〜5日目の間に生じます。
肺ペストは、体の別の感染部位からペスト菌が血流に入って肺に来る場合と、肺ペスト患者と接触し、せきの飛沫を吸いこんで発症する場合とがあります。大変感染性が強く、ペスト菌がテロリストによって生物兵器として使われるとしたらこの型だろうといわれています。症状は菌に接触してから2〜3日後に突然始まり、悪寒がして発熱し、心拍が速くなり、激しい頭痛を伴うこともよくあります。せきは24時間以内に出てきます。たんは初めのうちは透明ですが、すぐに血が混じり、やがて全体がピンク色か鮮やかな赤(ラズベリーシロップのような色)になり、泡状になってきます。呼吸は速く荒くなります。治療を受けないと、ほとんどの場合、症状が出てから48時間以内に死亡します。
敗血症ペストは血液中に広がる感染症です。腺ペストや肺ペストとして症状が現れる前に死亡してしまうこともあります。
軽症ペストは症状が軽い型で、この病気がよくみられる限られた地域にのみ発生します(地方病性)。リンパ節の腫れ、発熱、頭痛、けん怠感などの症状が出ますが、1週間以内に治まります。

診断は、血液、たん、リンパ節から採取したサンプルを検査室で培養し、分析して確定します。

 【予防と治療】
予防対策はネズミの駆除と殺虫剤によるノミ退治が基本となります。ワクチンは現在入手できません。ペスト発生地域に住む人や、そこを旅行する人は、予防用に抗生物質のテトラサイクリンを服用するのがよいでしょう。

ペストの疑いがある場合、医師はただちに治療を始めます。敗血症ペストや肺ペストの治療は24時間以内に行う必要があります。迅速に治療を始めれば、死亡率を5%以内に抑えることができます。治療では、ストレプトマイシンを注射で10日間投与します。ほかにも有効な抗生物質は多数あります。
肺ペストの場合は、腺ペストと違って隔離の必要があります。肺ペストの人と接触した場合は、治療を受けるか、医師の観察下で感染の徴候の有無を詳しく調べる必要があります。
 ⇒ 感染症の種類

[メニューへ戻る]  [HOMEへ戻る]  [前のページに戻る]