Subject  : 破壊性甲状腺炎

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 破壊性甲状腺炎
 破壊性甲状腺炎とは,甲状腺内の炎症の比較的急性な増悪により,濾胞が破壊され,甲状腺ホルモンが血中に漏出することにより一過性の甲状腺中毒症を呈する病態をさす.一般臨床において遭遇する機会の多い原因疾患としては,(1)亜急性甲状腺炎,(2)無痛性甲状腺炎,(3)橋本病の急性増悪,(4)急性化膿性甲状腺炎等があげられる.破壊性甲状腺炎の診断のきっかけとしては,甲状腺中毒症,甲状腺の自発痛・圧痛,超音波検査での甲状腺内低エコー領域の同定などが考えられる.

 【症状・診断】
1.甲状腺中毒症の鑑別診断
 破壊性甲状腺炎を発症した患者は,動悸・発汗・易疲労感・手指振戦などの甲状腺中毒症状を自覚して受診することが多い.甲状腺中毒症の原因疾患としては,バセドウ病や機能性甲状腺結節などによる甲状腺機能亢進症と,破壊性甲状腺炎による一過性の甲状腺中毒症があり,治療方針も異なることから鑑別診断が非常に重要である.これらの疾患の鑑別診断には,放射性ヨード摂取率測定がゴールデンスタンダードであるが,甲状腺超音波検査はこれに代わりうる重要な診断ツールとして頻用されている.すなわち,Bモード超音波検査における評価に加え,カラードップラー超音波検査において,バセドウ病ではびまん性血流亢進,破壊性甲状腺炎では血流低下所見が認められ,両者の鑑別が可能であることが多い.しかし,破壊性甲状腺炎の回復期においては,上昇してくるTSHにより甲状腺内血流の亢進所見がみられることがあり,注意が必要である.
 破壊性甲状腺中毒症の原因疾患のうち最も高頻度にみられる疾患は無痛性甲状腺炎である.この疾患は甲状腺に痛みを伴わない破壊性甲状腺炎の総称であり,背景に橋本病を合併していることが多い.また,出産後半年以内に発症する出産後甲状腺炎も本疾患に含まれる.超音波所見としては,亜急性甲状腺炎に類似した限局性の低エコー域を認める症例から,橋本病にみられるびまん性変化のみがみられる症例まで多様であるが,甲状腺中毒症期においては甲状腺内の血流の低下が認められる.
2.甲状腺の自発痛・圧痛の鑑別診断
 前頚部の自発痛あるいは圧痛をきたす疾患としては,破壊性甲状腺炎の中では亜急性甲状腺炎および橋本病急性増悪および急性化膿性甲状腺炎があり,他には腫瘍内あるいはのう胞内出血,未分化癌があげられる.亜急性甲状腺炎はこれらの中でも最も頻度が高い疾患である.この疾患では,甲状腺に有痛性の硬結が触知され,超音波上同部位に一致した境界不明瞭な低エコー領域が地図状あるいはまだら状に認められ,血流の低下が認められる.
 橋本病急性増悪とは,橋本病患者において甲状腺組織の炎症が増悪し,甲状腺の自発痛とともに破壊性甲状腺中毒症を呈する疾患である.超音波所見は,他の破壊性甲状腺炎とほぼ同じく,限局性の低エコー域が認められるが,亜急性甲状腺炎とは異なり,触知可能な結節を形成しない.また,基礎疾患が橋本病であるため,甲状腺全体に腫大や内部エコーレベルの低下・不均質といった橋本病の所見も認められる.他の疾患については,同パネルディスカッション内の演題を参照されたい.
3.甲状腺内低エコー領域の鑑別診断
 破壊性甲状腺炎では,Bモード画像において甲状腺内に低エコー域が認められることが多いが,他に境界不明瞭な低エコー域を呈する疾患として,甲状腺癌(特に未分化癌),悪性リンパ腫があげられる.これらの悪性疾患との鑑別診断は,超音波検査による詳細な性状の解析により可能なことが多いが,診断に疑問がある場合は,穿刺吸引細胞診を行うことが重要である.

<出典:日本超音波医学会>
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