Subject  : 薬物乱用のおそれがある薬物

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 薬物乱用のおそれがある薬物
薬物乱用(ドラッグ・アビューズ)とは、向精神薬を医療以外の目的で多量にまたは長期間使用し、使用者や他者の生活の質(QOL)や健康と安全を脅かす状態をいいます。多くの人が特に医療上の必要はないのに薬物を使用していますが、健康を損なったり機能に悪影響を与えたりしない程度に管理して用いています。
乱用される可能性が特に高いのは精神作用性の薬物ですが、精神に作用しない薬物(または作用があってもごくわずかなもの)も医療以外の目的で使用されることがよくあり、使用する人の生活の質や健康、安全などが損なわれるケースもあります。薬物のこのような使われ方も、薬物乱用とみなされます。
こうした薬は乱用をやめても離脱症状(いわゆる禁断症状)は出ませんが、急に中止すると医学的な問題が生じることがあります。

 ○ タンパク同化ステロイド
タンパク同化ステロイド(アナボリックステロイド)は、男性ホルモンのテストステロンに非常によく似た物質です。筋肉の量と体力を増強させ、活力を向上させるなど体に対してさまざまな作用があるため、スポーツの世界で勝つために乱用されることがあります。この薬物を使用する人の大半がサッカー、レスリング、重量挙げなどの運動選手で、そのほとんどが男性です。 タンパク同化ステロイドの乱用が原因で、さまざまな副作用が生じます。大量に摂取すると、気分の動揺、理性を欠く行動、攻撃性の増加などが起こります。タンパク同化ステロイドによって、肝臓の損傷や黄疸が起こることもあります。定期的に摂取していると、量の多少にかかわらず、体毛が濃くなります。にきびの悪化もよくみられ、若者が医療機関を受診するきっかけになることがあります(他の副作用による受診はまれ)。タンパク同化ステロイドの代謝産物は、尿検査で測定できます。

 ○ 成長ホルモン
成長ホルモンは脳でつくられ、体内におけるタンパク質、炭水化物、脂肪の利用をコントロールして成長を促します。医療用の薬としての成長ホルモンは、体内で十分な量の成長ホルモンをつくれないために身長が低い児童に投与するなどの用途に用いられています。一方、成長ホルモンは筋肉や体力を増強させ体脂肪を減らすとの思いこみから、これを運動選手が乱用することがあります。 成長ホルモンを医療以外の目的で長期間にわたって使用すると、血液中の中性脂肪値の増加、糖尿病、心臓の肥大やそれによる心不全を引き起こすことがあります。体内でつくられたものではない成長ホルモンを測定する検査は、一般には行われていません。

 ○ エリスロポエチンとダルベポエチン
エリスロポエチンは腎臓でつくられるホルモンで、骨髄による赤血球の産生を促進する働きがあります。医療用の薬としても製造されていて、腎不全やその他の原因で起こる貧血の患者に投与されます。ダルベポエチンはエリスロポエチンに似た薬で、やはり一部の貧血に用いられます。赤血球を増やせば酸素を筋肉に多く取りこめるようになり、運動能力が向上するという思いこみから、運動選手がこれらの薬を乱用することがあります。 エリスロポエチンやダルベポエチンを医療以外の目的で使用すると、赤血球の産生に対する体内の調節機能が変化し、使用を中止すると赤血球数が急激に減少することがあります。体内でつくられたものではないエリスロポエチンを測定する検査は、一般には行われていません。

 ○ 利尿薬
利尿薬は腎臓による塩分と水分の排出を促す薬です。利尿薬は、心不全や高血圧などさまざまな病気の治療に使われています。運動選手や神経性無食欲症などの摂食障害の人が、体重を早く減らしたいという動機から利尿薬を乱用することがあります。利尿薬を不適切に使用すると、脱水症を起こしたり、カリウムなどの電解質の重度の欠乏が生じます。

 ○ トコンシロップ
トコン(吐根)シロップは嘔吐を誘発する薬です。本来は、化学物質や毒物を誤って飲んでしまった子供に使用します。しかし、神経性無食欲症などの摂食障害がある人が体重を減らす目的でトコンシロップを乱用することがあります。不適切に使用すると、下痢、重度の電解質欠乏、衰弱、不整脈、心不全が生じます。

 ○ 下剤
下剤は便通を促進する薬で、便秘の治療に使われます。しかし、健康でいるためには頻繁に便通がなければならないという誤った思いこみから、下剤を乱用する人がよくいます。また、神経性無食欲症などの摂食障害がある人では、下剤で体重を減らせると考えて乱用する場合があります。 医学的な必要がないのに下剤を頻繁に使用すると、脱水症と重度の電解質欠乏が生じます。下剤を常用すると他の薬の吸収が妨げられ、その作用が止まってしまうことがあります。下剤を長期にわたって不適切に使い続けると、大腸の筋層がダメージを受け、かえって重度の便秘になることがあります。
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