Subject   : ヘムオキシゲナーゼ(HO)

カテゴリー  : 学術情報 > 化学


 ヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase)
 ヘムオキシゲナーゼ(HO)は、ヘム(heme)を、ビリベルジン(biriverdin)と、一酸化炭素(CO)と、遊離鉄(Fe)に分解する酵素。  HOは、ヘムのポルフィリン環を開裂し、酸素分子を添加する(酸素添加酵素)。

 heme→biriverdin+CO+Fe

 ビリベルジン(緑色の色素)は、ビリベルジン・リダクターゼ(biriverdin reductase)により、ビリルビン(bilirubin:黄疸の時の黄色の色素)に分解される。
 ヘム分解により産生れる、ビリベルジンとビリルビンには、強力な抗酸化作用があり、酸化ストレスなどによる細胞傷害を抑制する。また、一酸化炭素は、末梢循環の還流圧を調節する。  ビリルビンは、ビリベルジンに酸化されることで、多価不飽和脂肪酸の酸化(連鎖的脂質過酸化反応)を抑制する。

 体内の鉄の約70%は、ヘモグロビンとして存在する。  ヘム蛋白(hemin)は、強い細胞障害を引き起こし、血管内皮細胞を障害する。  HOは、ヘム蛋白を分解し、血管内皮細胞障害を防ぐ。

 HOには、HO-1とHO-2の二つのアイソフォームが存在する。  HO-1は、肝臓、脾臓、マクロファージに存在し、高熱、ヘム蛋白、酸化リポ蛋白、サイトカイン、エンドトキシン、などで誘導される。HO-1は、酸化ストレスから、生体を防御していると考えられる。  HO-2は、肝臓、脳、睾丸に構成型として存在し、生体のCO産生に関与している。
 COは、特に、肝臓のHO-1、HO-2によって産生され、毛細血管を拡張し、肝臓内の血管内皮細胞の恒常性維持と血流保持に関与している。  妊娠中には、HO-1活性が亢進し、産生されるCOは、NO(一酸化窒素)と同様に、子宮収縮を抑制するという。

 HO-1を欠損した男児例(6歳)では、発育不良に加え、採血した血清が茶褐色だったという。HO-1欠損症では、採血した血液を、遠心分離すると、多数の破砕赤血球、血管内溶血の為、血清は透明でなく、どろどろとした浮遊物が存在し、血清の上層に、脂質の層が見られる。
 検査所見では、血管内皮障害による、血管内溶血(貧血、破砕赤血球、LDHが高値)、凝固・線溶因子の異常(血小板数が増加、FDPやvWFやTMが高値)、鉄の蓄積、血清中ヘム濃度の著明な増加が見られたが、ビリルビンは正常値(0.3mg/dl)だったという。LDH値(1,233IU/L)やAST値(GOT値:298IU/L)は、高値を示すが、ALT(GPT値:41IU/L)は、左程、上昇しない。血液中のCRP値は、高値を示す(14.7mg/dl)。
 また、腎症(蛋白尿、血尿)があり、腎生検では、糸球体のメサンギウムの軽度の増殖、毛細血管内皮細胞と基底膜のの剥離などが、認められたという。HO-1は、正常人の腎臓では、遠位尿細管の方が、近位尿細管より、多く発現している。  HO-1欠損症では、発熱(弛張熱)、発疹(紅斑)、肝腫大、リンパ節腫大、関節痛、軽度の運動発達遅延が見られたという。
 HO-1欠損症では、HOにより、ヘムが分解されないので、(血液中の)ヘムが、著明に増加する。
 増加したヘムにより、酸化ストレスが増加し、血管内皮細胞が障害され、全身の血管に炎症が引き起こされる。
 活性化単球(CD16抗原陽性)から産生されるHO-1/COは、Mark pathwayを介して、サイトカインのIL-10産生を誘導し、炎症を抑制する。
 HOは、ストレス誘導性の酵素(亜砒酸などのストレスにより誘導される)で、普通は、発現していない。
 喫煙によって、活性酸素が産生される。  HO-1が少ない(遺伝子の多型性がL群)の人は、肺気腫になりやすい。
 HO-1は、酸化ストレスから細胞を保護する生体防御機構として、重要な酵素。  HO-1 mRNAは、尿細管上皮細胞(近位尿細管より、遠位尿細管に強く発現)、糸球体上皮細胞、浸潤マクロファージにのみ、発現している。
 HO-1は、酸化されようとしているニューロンに、保護作用を持つと言う

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