Subject   : PTP(ミトコンドリア膜透過性遷移孔)

カテゴリー  : 学術情報 > 化学


 PTP(ミトコンドリア膜透過性遷移孔)
 ミトコンドリア内膜と、外膜との接触部位(contact sites)には、 PTP(permeability transition pore)と呼ばれる穴構造が、存在する。 PTPは、porin、adenine nucleotide translocase、cyclophilin Dで 構成される複合体で、複合体Iに関連しているようだ。

 PTPの開口を調節する、主な因子は、Ca2+(カルシウムイオン:ミトコンドリア内にCa2+が蓄積すると、開口する)。また、ミトコンドリア内のCa2+が減少・涸渇すると、アポトーシスが起こる。

PTPが開くと、PTPの穴を通って、プロトンなどが、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)から、ミトコンドリア内(マトリックス)に、流入する。  アスピリンの代謝産物のサリチル酸は、ミトコンドリアで、PTPという穴構造を開いてしまうので、その結果、プロトンを含めた低分子量の物質が、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)から、ミトコンドリア内(マトリックス)に流入して、その為、ミトコンドリアは、膨化(膨張化)してしまい、TCA回路が作動しなくなり、NADH2+の生成が減少し、電子伝達と酸化的リン酸化によるATP生成が障害され、また、肝臓では、脂肪酸のβ酸化が進行せず、中性脂肪が、蓄積すると、考えられる。

 PTPが開いた状態では、低分子量の物質(分子量1500まで)が、ミトコンドリア内(マトリックス)と、細胞質ゾルの間を、自由に通過する。
 PTPが開くと、PTPの穴を、プロトン(水素イオン:H+)が、ミトコンドリア内に、流入して(proton influx、注6)、膜電位(the mitochondrial transmembrane potential:)が、低下し、ミトコンドリアが、膨化する。
 PTPが開くと、ミトコンドリア膜の電位(the mitochondrial membrane potential)が、放電(discharge)され、酸化還元電位が変化して、アポトーシスが誘導される(pro-apoptogenic)と、考えられる。しかし、完全にエネルギーが放電されると(a complete deenergization)、細胞は、アポトーシスでなく、壊死(necrosis)に陥る:PTPは、壊死(ネクローシス)と言う、アポトーシスと異なる細胞死にも、関与する。従って、ミトコンドリアで、プロトンを脱共役する物質(mitochondrial protonophoric uncouplers)は、アポトーシスを誘導しない。

 NSAIDsの脱共役作用(uncoupling effec)の、少なくとも一部は、PTPの誘導(induction)の為と、考えられ得る。サリチル酸(salicylic acid)や、アスピリンは、ミトコンドリアに副作用があるが、これは、PTPの穴を開口させて、膜電位()を低下させ、ミトコンドリア内のNADH2+を、減少させ、ATP産生を、減少させるためと考えられる。Mg2+や、シクロスポリンA(Cyclosporin A:CysA)は、PTPの阻害剤(inhibitor)であり、ミトコンドリアを、防御する。  Cyclophilin D(CpD)は、PTPの、ミトコンドリア内膜側の部分に、存在する。シクロスポリンAは、このcyclophilin Dに結合し、cyclophilin Dを、内膜から除去し、PTPの開口(opening)を阻害することが、示唆されている。  サリチル酸(salicylates)が、PTPを開口させ、ミトコンドリアの膜電位を喪失させるのには、Ca2+ が、必要のようだ。しかし、他方で、サリチル酸は、PTPを開口させ、ミトコンドリア内に蓄積されたCa2+を、放出させる。これらのサリチル酸の効果(毒性)は、シクロスポリンAで、阻害される。PTP(の穴)を誘導する(開口させる)作用は、サリチル酸の方が、アスピリン(acetylsalicylic acid)より、強い。

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