Subject   : 筋細胞と筋収縮

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 筋細胞
 骨格筋の筋細胞(=筋繊維)は、筋原繊維(myofibril)で構成されて います。筋細胞は筋繊維鞘(sarcolemma)で包まれた多核の細胞である(筋芽細胞 myoblastが融合したシンシチウムである)。筋原繊維を包んでいるのは筋小胞体(sarcoplasmic reticulum)である。筋原繊維は筋節(sarcomere)が多数、連なったような構造をしている。  筋節の長さは約2.5μmで、細胞の長さの0.01 %にすぎないので、一つの筋細胞は10,000ほど の筋節を含むことになる。筋節の両端はZ線(Z板、ZL)で仕切られていて、次の筋節と連続し ている。
筋節には多数の繊維構造が見える。筋節の中央部には電子顕微鏡で見て暗く見えるA帯(暗帯)が存在し、A帯とZ線の間は明るいI帯(明帯)が存在する。  A帯の中央にはやや明るいH帯が存在する。筋節の断面を電子顕微鏡で見ると、 I帯は細いフィラメントのみ、A帯は細いフィラメントと太いフィラメントが規則正しく交互に配列し、H帯は細いフィラメントがなく太いフィラメントだけであることがわかる。SR:筋小胞体,Sa:筋節。  骨格筋では、最大収縮時には筋細胞の長さの約40%短くなる。このとき、すべての筋節の長さは一様に減少する。筋節の短縮により、Z線間の距離は縮まるが、中央のA帯の長さは変わらない。しかしながらH帯とI帯はほとんど消失する。  これは収縮に伴って細いフィラメントがA帯中に滑り込むことを意味する。完全収縮時には細いフィラメントが中央でほとんど出会うところまで滑り込む。  細いフィラメントは微小繊維と同じもので、これがZ線に強く結合している。  太いフィラメントはミオシン分子からなる。 ミオシン分子は、2本の相同な重鎖(分子量200,000でアミノ酸1,800からなる) と、4つの軽鎖からなる大き な分子である(分子量500,000)。 頭の部分とそれに続く長い2本 のαヘリックスが撚り合わさった構造をしている。 ミオシンフィラメントは、このミ オシン分子が約500本、規則正しく集合してできている。ミオシン分子の尾部は 平行に並び、アミノ酸残基の側鎖間の相互作用により側面どうしで結合する。
 ミオシン分子の長さは、太いフィラメントの長さの一部にすぎないが、分子は互い違いに少しずつ、づれながら重合するので、尾部は太いフィラメントのコアを形成し、球状の頭部は コアの側面から規則的な間隔で突き出すかたちになる。  ミオシンフィラメントの中央の左右で、 ミオシン分子の頭部はそれぞれフィラメントの両端に向いて配列される。したがって中央部は ミオシン分子の頭部の突出がなく、電子顕微鏡で見るとH帯となって見える。

■ 筋収縮の機構
 ミオシン頭部にはアクチンとの結合部位とATP分解酵素の働きがある。はじめミオシン頭部はアクチンと結合しているとする。ATPがやってくると、ATPはミオシン頭部のATP分解酵素部位と結合する。
 するとミオシン頭部は立体構造が変わるため、アクチンとの結合が外れ、フィラメントに沿ってプラスエンドに向かって移動する。一方、結合したATPはATP分解酵素の働きでADPとリン酸に分解 される。
 するとミオシン頭部は移動した位置でアクチンと結合し、リン酸を放出してさらに 強くアクチンと結合する。
 最後に、ミオシン頭部はADPを放してもとの姿勢に戻り、このときアクチンフィラメントを滑り込ませる。この運動を繰り返すことにより、アクチンフィ ラメントはA帯の中に滑り込んでゆき、筋節は短くなる、すなわち収縮がおこる。

筋収縮の開始は、 骨格筋の場合、運動神経が興奮すると、その神経末端(正確には軸索の末端で、シナプスと呼ばれる構造)から神経伝達物質であるアセチルコリンが放出される。すると、筋小胞体に貯蔵されていたカルシウムイオンが筋繊維内に放出される。このカルシウムイオンの濃度が上がることが刺激になって、上に述べたATP によるミオシンの運動が始まる。
 カルシウムイオンは、筋小胞体の膜に存在するポンプの働きによって元のように汲み込まれると筋肉の弛緩がおこる。このように、カルシウムイオンが運動の開始に極めて重要な役割を演じているのである。
 それではカルシウムイオンの濃度が高くなるとどうして収縮が始まるのだろうか。この点を理解するためには、アクチン結合タンパク質について理解する必要がある。
 いままでは、筋肉のアクチンフィラメントを2本のFアクチンが撚り合わさった、とだけしか説明してこなかった。実際には、アクチンフィラメントに沿ってトロポミオシンという細長いタンパク質が巻きついていて、アクチンのミオシン結合部位をふさいでいる。

 もう一つのアクチン結合タンパク質であるトロポニン複合体(Tn-I、Tn-C、Tn-T)はトロポミオシンと結合し、カルシウムとも結合できる。カルシウムイオンは、トロポニンと結合してその立体構造を変え、トロポミオシンをアクチンのミオシン結合部位から引き離す。そのため、上に述べたミオシンとアクチンの相互作用が始まるのである。
 ⇒ 細胞骨格

[メニューへ戻る]  [HOMEへ戻る]  [前のページに戻る]