Subject   : 体内時計と時計遺伝子

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 体内時計と時計遺伝子
 生体には、体内時計が存在し、種々の生体リズムを制御しています。その本体は、視神経が交叉するSCN(視交叉上核)に位置し、時計遺伝子により制御されています。
 この遺伝子は中枢だけでなく末梢組織でも発現し、ローカル時計として機能しています。生体は体内時計の階層構造うまく利用し、生体のホメオスタシス機能を維持しています。体内時計の発信周期は、24時間ではなく、ヒトの場合約24.2〜25.1時間時間です。つまり体内時計は正確に24時間周期で変動するのではなく、短い場合や長い場合が存在します。

 環境サイクルのない、いわゆる恒常環境下での約1日の変動リズムを「概日リズム」といいます。 このような24時間のサイクルに合わせることを「同調」といい、光が最も強力な作用を示します。また、体内時計が発する概日リズム振動のことを「発振」といい、その信号が例えば松果体のメラトニン分泌を調節するような機構を「出力」といいます。

 概日リズムを駆動する振動体が存在することが明らかにされています。SCNにはさまざまな脳部位からの神経が投射しています。特に、網膜から直接SCNにいたる網膜視床下部路(RHT:retinohypothalamic tract)は、外界の明暗変化の情報を体内時計へ伝達し、内因性に生み出されるリズムを正確に外界の明暗サイクルに同調させる重要な働きを持っています。  また、網膜から中脳の外側膝状体中隔葉を中継してSCNに至る外側膝状体視床下部(GHT:geniculohypothalamic tract)は、RHTと同様に外界の明暗情報を伝えたり、覚醒レベルの上昇に伴う体内時計の位相変化に重要な役割を果たしています、
生体リズム機構は同調、発振、出力から成り立っています。

■ 発振
Per遺伝子(PER蛋白質)Cry遺伝子(CRY蛋白質) CLOCK/BMAL1複合体等の関与 哺乳類ではPERとCRYがともに制御因子として機能を果たしています。

■ 同調
1.光同調〜明暗(光)の変化による体内時計のリセット
2.非光同調〜光以外の因子によるリセット

 光刺激は主観的暗期に特異的に体内時計の位相を変化させますが、多くの非光刺激は明期に作用して体内時計をリセットします。
 このような非光同調因子として、制限給餌、強制運動、薬物による覚醒レベルの上昇、恒明飼育下の暗パルス刺激などが知られています。
神経伝達物質としては、GABA、ニューロペプチドY、ベンゾジアゼピン化合物、メラトニン、セロトニンなどが知られています。

■ 出力
 遺伝子産物の活性が概日リズムを示す遺伝子、いわゆる時間調節遺伝子(clock-contorolled gene;CCG)は数多く知られています、時計遺伝子のいくつかもCCG同様リズミックな発現を示しますが、CCG遺伝子とその産物はフィードバックループの外にあるため、時計振動機構には影響しません。
 出力系の遺伝子のいくつかは直接時計遺伝子の支配下にあります。SCNのバソプレッシン遺伝子は明期の前半にピークを示します。またSCNや肝臓でリズミックに発現しているdbpも出力系の遺伝子です。肝臓でのアルブミン遺伝子や数種のP450分子の転写はこの転写因子の制御下にあり、転写活性が概日リズムを示します。

 時計遺伝子はSCN以外の他の臓器でも発現していて、SCNに比べ位相が遅れています。このことはSCNが中心時計として働き、他の部位に発現している時計遺伝子はローカル時計として働き、SCNから何らかの情報(ホルモン、神経機能)が他の臓器の機能をコントロールしているものと思われます。
 ⇒ メラトニン(melatonin)

[メニューへ戻る]  [HOMEへ戻る]  [前のページに戻る]