Subject   : 脈管形成(vasculogenesis)

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 脈管形成(vasculogenesis)
 胎児期のように、個体内にまだ血管がない時期に、新しく血管が発生する過程のことを脈管形成と呼ぶ。一方で既存の血管から新しく血管が発生、伸長する過程のことを血管新生とよぶ。

 血管の構成細胞は内腔面を一層に覆う血管内皮細胞と、その周囲を裏打ちする血管壁細胞(平滑筋細胞、周皮細胞)に大別される。これらの細胞は一部を除いて主に中胚葉細胞から分化する。中胚葉分化および、中胚葉から内皮細胞系列の細胞への分化決定にbone morphogenetic protein 4 (BMP4)およびFGF(fibroblast growth factor)がそれぞれ重要である。ヒトのES細胞の分化系解析では、Indian hedgehog (IHH)が血管内皮細胞の分化誘導に重要な機能を示す。

 中胚葉からの血管細胞の発生時期において、E-26-specific (ETS) 転写因子ファミリーの中で、ER71 (ETS-related 71, 別名ETV2)はVEGF受容体2(VEGFR-2 ; 別名Flk-1)と共に、血管系細胞に分化決定する細胞に特異的に発現する。そしてER71遺伝子欠損マウスでは血管と血液の両者が発生しないことから、ER71は血液血管共通祖先細胞であるヘマンジオブラストの発生あるいは分化に関与することが明らかである。ER71は、血管系や造血系の発生分化に重要なVEGFR-2, Tie2, Scl, Notch4, そしてNFATC1 (nuclear factor of activated T cells, cytoplasmic1)の発現を調節する転写因子Fox (forkhead transcriptional factor)-C2と相互作用する。
 VEGFR-2(Flk-1)は、ヘマンジオブラストに発現し、転写因子であるSCLはFlk-1の下流で働いて、SCLが欠損すると血管、造血ともに発生が抑制されるが、SCLの過剰状態では内皮細胞と血液細胞の発生が増強し、壁細胞の発生が抑制される。このことからVEGF(Vascular endothelial growth factor)の刺激によって誘導されるSCLの量的バランスが、血液、血管内皮細胞、血管壁細胞の発生を制御していると考えられる。
 このように発生した血管細胞は、内皮細胞どうしの接着、壁細胞の動員と裏打ち、管腔の拡張によっていわゆる原始血管叢を形成する。内皮細胞同士の接着には接着結合(adherent junction)を形成するVEカドヘリンを主体として、密着結合(tight junction)やギャップ結合(gap junction)ではそれぞれ種々のオクルディンやクローディン、そしてコネキシンが機能して接着に貢献する。またその他、CD31(PECAM-1)や種々のインテグリンも内皮細胞間の接着に寄与する。

<出典:日本血栓止血学会>

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 ⇒ 血管系

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