Subject   : スピントランジスタ (スピンFET)

カテゴリー : デバイス > センサ


 スピントランジスタ (スピンFET)
 現在スピントロニクスでトランジスタを実現しようという研究が盛んに行われている。

 スピンFETではソースとドレインが強磁性体になっている。ゲート電圧を加えていない場合は、ソースから電子がスピンの向きを保ったままチャンネルを通過し、ドレインへと移動する。このように電流が流れるのはチャンネル内の電子スピンの向きとソースの電子スピンの向きが一致しているおかげである。一方、ゲート電圧を加えた場合は、生じた電場によりチャンネル内の電子スピンの向きがドレインとは逆になるので、電子の移動が起こりにくくなる。こうして電流が流れにくくなる。従来型FETではゲート電圧を加えると反転層ができて電子輸送が起こるわけだが、スピンFETはこれと正反対の動作になっているというわけだ。

 このように従来型と類似点の多いスピンFETだが、電子の電荷ではなくスピンを採用することによって可能となった特徴があることにも注目したい。例えば、スピンFETは従来のものよりも動作に必要なエネルギーが少なくてすむとされている。従来のFETが電荷で電子を押し出していたのに対し、スピンFETは電子のスピンの向きを変えているだけだからだ。

 しかし、それ以上に大きなアドバンテージは、スピンFETは一つの素子で「トランジスタ+メモリ」の役割を果たせるかもしれないということだ。上図では、スピンFETのドレインとソースの磁化の向きが等しい場合を示したが、実際のところはそうなっている必要はなく、外部からの磁場でドレインのスピンの向きを変えてしまうことも可能だろう。そうすれば先ほどとは逆の動作原理になるというわけだ。しかも磁場を加えるのを止めても、ドレインなどの強磁性体のスピンの向きは保持される。つまりスピンFETのおかげで、書き換え可能な不揮発性電子回路が可能になるというわけだ。これが実現すれば、エレクトロニクス分野にとてつもないインパクトを及ぼすことになる。

 スピンFETは1990年に、S.DattaとB.A.Das(当時はPurdure大学)によって提案された。このデバイスの構造は従来のFET(Feild Effect Transistor)によく似たものだが、やはり電子の電荷ではなく、スピンが主役となっている。
半導体ベースのスピンデバイスを考えた場合、大きな問題が発生する。それは「スピン注入」に関する問題である。例えばDattとDasの提案したスピンFETの場合、ソースから半導体のチャンネルへ電子を注入するとき、接合面で電子が散乱されてしまい、電子の持っていたスピンなどの情報が失われてしまう。他にも半導体内部ではスピンの向きを維持するのが難しいという問題がある。

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 ⇒ スピントロニクス(Spintronics)

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