Subject : ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症
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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症
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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は、HIV-1とHIV-2という2種類のウイルスのいずれかによって起こります。HIVは白血球の1種であるリンパ球を進行性に破壊します。リンパ球は体の免疫防御能に大切な役割を担っています(免疫システムのしくみと働き: リンパ球を参照)。リンパ球が破壊されると、体はさまざまな感染性生物の攻撃を受けやすくなります。死にも至るHIV感染症の合併症の多くは、HIV感染症自体によるものではなく、たいていの場合、こうしたさまざまな他の感染症によるものです。
エイズと呼ばれる後天性免疫不全症候群は、HIV感染症の最も重い型です。HIVに感染していて、合併症が少なくとも1つ現れるか、CD4+リンパ球数の減少により感染に対する抵抗力が明らかに低下した場合には、エイズを発症したとみなされます。
HIVが感染するには、ウイルスや感染細胞を含んだ体液との接触が必要です。このウイルスは、ほとんどどの体液中にも存在しますが、感染が起こるのは主に血液、精液、腟(ちつ)分泌物、母乳からです。涙、尿、唾液(だえき)の中にも少量のウイルスはいますが、これらの体液から感染することは非常にまれです。
- 【症状】
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ほとんどの場合、感染初期には目立った症状はありません。しかし数週間以内に、熱、発疹、リンパ節の腫れ、疲労感などさまざまな症状が起こり、数週間続きます。その後、これらの症状は消えますが、リンパ節だけは腫れが続きます。感染した場合、症状がなくても、感染力は早い時期からあります。
HIVに感染してからエイズを発症するまでには何年もかかり、10年以上たってから発症する人もいます。エイズを発症するまでは、まったく元気な人もいれば、リンパ節の腫れ、体重減少、疲労感、繰り返し起こる発熱、下痢、貧血、口の真菌感染症(鵞口瘡[がこうそう])など、種々の非特異的な症状が出る人もいます。
エイズの主な症状は、HIVの感染によって起きる特定の日和見感染症や癌による症状です。HIVは脳に直接感染することもあり、記憶障害、脱力感、歩行困難、思考や集中が困難になる認知症が起こります。一部の人は、明らかな原因がなくても、エイズるいそうといって体重が著しく減少することがあり、おそらくHIVが直接関与しているものと思われます。エイズの人におけるるいそうは、連続して感染症にかかったり、結核のような持続的な感染症を放置したりしていたときにも起こります。
口のHSV感染症の再発は口唇ヘルペスと呼ばれ、かぜがきっかけとなって現れることがよくあります。発疹は唇に発生しますが、まず、唇にピリピリした痛みが生じ、数分から数時間すると赤くなって腫れてきます。そして、水疱ができて破れ、びらんが残ります。びらんの部分はすぐにかさぶたになり、かさぶたは1週間ほどで取れて治ります。たまに、ピリピリした痛みと発赤だけが生じ、水疱ができないこともあります。また、びらんの小集団が歯肉や口蓋(こうがい)にできることもあります。これも1週間ほどで治ります。
カポジ肉腫は皮膚に痛みのない赤紫色の隆起した斑点ができる癌で、多くのエイズ患者、特に男性同性愛者に多くみられます。免疫系の癌(リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫)も発症しますが、初めに脳に出現すると、錯乱、人格の変化、記憶障害が現れます。女性は子宮頸癌(しきゅうけいがん)、男性同性愛者は直腸癌にかかりやすくなります。
エイズによる死亡は通常、るいそう、認知症、日和見感染症、癌などの症状が重なったことが原因となって起こります。
ELISA法という血液検査を用いて、HIVに対する抗体を検出します。ELISA法で陽性と出た場合は、さらに精度の高い検査で確認しますが、通常ウエスタンブロット法が用いられます。ただし、体内でウイルスに対する抗体ができるまでには時間がかかるので、両検査とも感染後1〜2カ月は陽性反応が出ません。その点、ウイルス負荷やP24抗原の検査では、感染後の血液中のHIVをより早期に検出できます。現在、P24抗原の検査は、他の検査と並行して、輸血用に献血された血液のスクリーニング検査に使用されています。
- 【治療法】
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HIV感染症の治療には、ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬という3つの異なるタイプの薬剤を使用します。2つの逆転写酵素阻害薬は、ともにウイルスRNAをDNAに変換する酵素を阻害することによって働きます。プロテアーゼ阻害薬は、HIVのプロテアーゼという酵素を阻害します。プロテアーゼは、
新しくつくられたウイルス中のある種のタンパク質を活性化するときに必要な酵素で、これらのタンパク質を活性化できなければ、未成熟で欠陥のあるHIVになってしまい、他の細胞に感染することができません。これらの薬はいずれもHIVを殺すのではなく、HIVの複製を抑える働きをします。複製が十分に抑えられれば、HIVによるCD4細胞の破壊が劇的に減り、CD4+リンパ球数が増加しはじめます。その結果、HIVによって免疫システムが受けた障害の大部分が回復することもあります。
ところが、これらの薬剤を単独で使用すると、HIVはいずれの薬剤に対しても耐性をもつようになります。薬の種類と患者の状態によりますが、耐性は服用を始めて数日から数カ月後に現れます。そこで治療では、少なくとも2〜3種類の薬剤を組み合わせて投与します。逆転写酵素阻害薬を1〜2種類とプロテアーゼ阻害薬を1種類といった形で併用するのが最も効果的とされ、これは「カクテル療法」と呼ばれています。薬剤を併用するのは、(1)血液中のHIV濃度を下げるには、単剤よりも複数の薬剤を併用した方がより強力である、(2)薬剤の併用により薬剤耐性が起こりにくくなる、(3)HIV治療薬の中にはリトナビルのように、他のHIV治療薬(ほとんどのプロテアーゼ阻害薬を含む)の代謝を遅らせて、その血中濃度を上げる役目をするものがある――という3つの理由からです。このように、薬剤の併用によってHIV感染者のエイズ発病を遅らせ、余命を延ばすことが可能になっています。
HIV治療薬の併用には、不快かつ深刻な副作用もあります。脂肪代謝の障害は、主にプロテアーゼ阻害薬によって起こると考えられます。体脂肪の分布が変わり、顔、腕、脚についていた脂肪が徐々に下腹部に移動してくる症状(プロテアーゼ腹)が現れます。女性の場合は、乳房に移動することもあります。血液中の脂肪であるコレステロールと中性脂肪が増加し、将来的に心臓発作や脳卒中を起こす危険性が高くなることが考えられます。
ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬は、人の細胞の重要なエネルギー生成器官であるミトコンドリアに障害を与えます。これらの薬剤の副作用には、貧血、神経障害による足の痛み、肝障害などがあり、肝障害はまれに肝不全に進行します。個々の薬剤によって副作用を起こす度合いは異なるので、症状を注意深く観察し、薬剤を変えていくことで、重大な問題が発生するのを防ぐことができます。
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