Subject  : 感染性心内膜炎

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 感染性心内膜炎
感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆う膜(心内膜)および心臓弁に生じる感染症です。
感染性心内膜炎は、具体的に心内膜の感染症を指しますが、心臓弁や心筋もよく障害されます。感染性心内膜炎には2種類あります。1つは、急性感染性心内膜炎と呼ばれ、突然発症して数日のうちに命の危険にさらされます。もう1つは、亜急性感染性心内膜炎あるいは亜急性細菌性心内膜炎と呼ばれ、数週間から数カ月かけて知らない間にゆっくりと発症します。
細菌(または頻度は少ないが、真菌)は、血流中から侵入して心臓弁にとどまり、心内膜に感染します。異常もしくは損傷した心臓弁は、正常な心臓弁よりも感染症にかかりやすくなります。このような弁に感染した細菌はほぼすべて亜急性細菌性心内膜炎を起こします。正常な弁でも、病原性の強い細菌が、特に大量に存在している場合には、感染症を起こす可能性があります。
小児や若い成人における心内膜炎の危険因子は、先天異常、特に心臓の一部から血液の漏れが生じるような欠損です。高齢者における主な危険因子は、左心房から左心室内へ開く僧帽弁や、左心室から大動脈内へ開く大動脈弁へのカルシウムの沈着です。小児期にかかったリウマチ熱(リウマチ性心疾患)(細菌感染症: リウマチ熱を参照)による心臓障害も危険因子です。リウマチ熱は、抗生物質が広く使われている国では、一般的な危険因子ではなくなりつつありますが、そのような国でも、移民などによって、小児期に抗生物質の恩恵にあずからなかった人たちにとっては、いまだに感染性心内膜炎の危険因子です。
注射用の麻薬を使用している麻薬常習者は、不潔な針や注射器、薬液などを介して細菌が直接血流に注入されやすいことから、心内膜炎のハイリスク群です。人工心臓弁を移植した人も、心内膜炎のハイリスク群です。

 【原因】
細菌は、正常な血液中には認められません。皮膚、口の中、歯ぐき(かむ、歯を磨くなどの日常的な行為による傷も含む)などに傷ができると、少量の細菌が血流に侵入できるようになります。感染症を伴う歯肉炎(歯ぐきの炎症)、軽度の皮膚感染症、全身性の感染症も、細菌を血流に侵入させる原因となります。
特定の外科的、歯科的、内科的処置も、細菌を血流に侵入させる原因となります。まれに、開胸術や人工弁置換術の際に、細菌が心臓に侵入することがあります。心臓弁が正常な人では普通は害はなく、体内の白血球が即座に細菌を破壊します。しかし、心臓弁に障害があると、そこで細菌が捕捉されて、心内膜にとどまり増殖しはじめます。重症の血液感染症である敗血症(菌血症、敗血症、敗血症性ショック: 菌血症と敗血症を参照)では、多数の細菌が血流に侵入します。血流中の細菌の数が非常に多くなると、たとえ心臓弁が正常であっても心内膜炎を発症します。
感染性心内膜炎の原因が、麻薬の注射などの薬物乱用や静脈ラインの長期使用による場合は、右心房から右心室内へ向けて開く三尖弁に最も多く感染が起こります。他のケースではほとんどの場合、僧帽弁か大動脈弁に感染が起こります。

 【症状と診断】
急性感染性心内膜炎は、38.9〜40℃の高熱、頻脈、疲労感、急速かつ広範囲の心臓弁の障害を伴って突然に発症します。
亜急性感染性心内膜炎は、疲労感、37.2〜38.3℃の軽度の熱、中等度の頻脈、体重減少、発汗、赤血球数の減少(貧血)などがみられます。これらの症状は、心内膜炎によって動脈の閉塞や心臓弁の障害が起こり、医師が心内膜炎と診断できるようになるまで、何カ月間もみられることがあります。
心臓弁上に細菌や血液のかたまり(血栓)が蓄積すると、崩れて塞栓となり、血流に乗って体のほかの部分に移動して動脈内を詰まらせます。ときに閉塞は重大な結果をもたらします。脳へ続く動脈が閉塞すると脳卒中が起こり、心臓へ続く動脈が閉塞すると心臓発作が起こります。また、塞栓は付着している部位に感染症を起こします。感染した心臓弁の底部、あるいは感染性の塞栓が付着しているところには、膿がたまります(膿瘍)。
数日のうちに、心臓弁に穴が開き、明らかな逆流を起こすような漏れが始まります。一部の人はショック状態になり、腎臓やその他の臓器の機能不全(敗血症性ショック(菌血症、敗血症、敗血症性ショック)が起こります。動脈の感染症は、動脈壁をもろくして、膨隆や破裂を引き起こします。特に脳内や心臓の近くの動脈が破裂した場合は致死的です。
急性および亜急性感染性心内膜炎のほかの症状としては、寒け、関節痛、顔が青白くなる(蒼白)、痛みを伴う皮下結節、錯乱などがあります。そばかすのような小さな赤い斑点(点状出血)が皮膚と白眼に出現します。細い赤い線(線状出血)が爪の下に出現します。これらの点状あるいは線状の出血は、心臓弁がちぎれてできた小さな塞栓によって生じます。大きな塞栓は、心臓発作や脳卒中はもちろんのこと、胃痛、血尿、腕や脚の痛みやしびれなどを引き起こします。心雑音が生じたり、または以前から心雑音があった場合には、変化がみられます。脾臓が腫大することもあります。

細菌の存在を確認するために血液サンプルを採取します。血液から細菌が検出されれば、診断がつきます。
病原菌を同定し、適切な抗生物質を選ぶために、採取した血液を培養します。心臓弁にある、血液や細菌が凝集してできたいぼ状のかたまり(形状から疣贅[ゆうぜい]とも呼ばれる)から継続的に細菌が血流に放出されるため、異なる時間に3回以上の血液サンプルを採取し、血流から細菌が継続して検出されるかどうかを確認する必要があります。同定された細菌に対し、さまざまな抗生物質の有効性を調べ、最も適した抗生物質を選択します。心エコーで心臓弁に疣贅が認められるものの、血液試料中に細菌がまったく検出されない場合は、非感染性心内膜炎と診断されます。

 【治療】
治療は普通、最低でも2週間、たいてい6週間にわたって、高用量の抗生物質の静脈内への投与が行われます。このような治療は、ほとんど常に入院中に開始されますが、かかりつけ看護師の支援のもとで、家庭において終わりにすることができます。
特に心臓弁が人工弁の場合、抗生物質だけでは感染症はほぼ治りません。心臓手術で障害された心臓弁を修復あるいは置換し、いぼ状のかたまりを除去する必要があります。人工弁の感染症により、弁が伸びて広がった場合は、弁を置換する緊急手術が必要になります。
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