Subject : ゲノム (genome)
カテゴリー : 学術情報 > 生化学
ゲノム (genome)
ゲノム (genome) は「ある生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報」 として定義される。 すなわちその生物の遺伝子の総和である。遺伝子「Gene」と、全てを意味する 「-ome」をあわせた造語であり、英語ではジーノムと発音される。 複数の染色体からなる二倍体細胞においては全染色体を構成するDNAの 全塩基配列を意味することもある。
1920年にH. Winklerによって配偶子が持つ染色体の一組として定義された。 後にコムギの研究を通して木原均(1930年)がある生物をその生物足らしめるのに 必須な遺伝情報として概念的に定義し直した。通常二倍体細胞においてはその半数体に 含まれる遺伝情報を意味する。
半数体ヒトゲノムは約30億塩基対からなり、体細胞は2倍体であるため約60億塩基対のDNAを核内に持っている。分裂酵母では3本の染色体DNA上に、大腸菌やミトコンドリアでは一つの環状DNA上に保持されている。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のようなレトロウイルスではRNAが媒体になる。
生物種
ゲノムサイズ(bp: 塩基数)
λファージ
4.8×10
4
大腸菌
4.6×10
6
出芽酵母
1.2×10
7
C. elegans
9.7×10
7
ショウジョウバエ
1.8×10
8
ヒト
3.0×10
9
マウス
3.3×10
9
エンドウ
4.8×10
9
トウモロコシ
5.0×10
9
コムギ
1.7×10
10
ユリ
1.2×10
11
遺伝子数とゲノムサイズは必ずしも比例しない。両生類や植物のユリのゲノムサイズは大きく、昆虫やトラフグではゲノムサイズが小さい。これはイントロンや遺伝子間のジャンクDNAの長さが原因である。進化の過程でゲノムサイズは増加していくが、あるときゲノムをコンパクトにすることが起こるためである。
現在の生物学ではゲノムを研究するゲノミクスを初めとして、オーミクス (-omics) と呼ばれる、網羅的解析を特徴とする研究分野が盛んになってきているゲノムプロジェクトはゲノムの塩基配列を解読することを目標としており、いくつかの種では既に全ゲノム配列が解読済みである。全ゲノム情報を明らかにすることで、有限の因子のなかで研究することができるとされる。しかし実際には偽遺伝子も存在しており解決すべき問題が残されている。ゲノム研究は SNPs 解析などを通じて医療分野への応用が期待されている。またゲノムは情報でしかなく、実際に機能しているのは発現した RNA やタンパク質であり、生命現象の理解にはこれらを知る必要がある。
ゲノム解読以降の研究を総称してポストゲノムと呼ぶが、新たにゲノムを解読する重要性がなくなるわけではない。ゲノムDNAからの転写産物 (トランスクリプト; Transcript) の総和としてトランスクリプトーム (Transcriptome)、存在するタンパク質 (プロテイン; Protein) の総和としてプロテオーム (Proteome) がある。 また代謝産物 (Metabolite) の総和として
メタボローム (Metabolome)
という概念もある。これらは組織や器官、細胞周期、生理・病理条件などで変化する。特にプロテオームを扱う分野をプロテオミクスといい、ポストゲノム研究として最も注目されている。
オーミクスでは、データを効率良く網羅的に収集し、コンピュータによって解析するという手法があり、バイオインフォマティックスという分野が登場した。バイオインフォマティックスでは「ハイ・スループット」がキーワードの一つである。多数の生物種のゲノムが明らかにされ、それらを比較することで生物進化を解析する上で有力な手がかりとなると考えられている。
⇒
染色体(Chromosom)
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