Subject : 脂肪酸の生合成
カテゴリー : 学術情報 > 生化学
脂肪酸の生合成
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脂肪酸合成の個々の反応を見れば脂肪酸の酸化的異化代謝(b-酸化)に出てくる反応と類似しているが,経路は逆反応と同じではない(「異
化と同化は別経路」の例)。以下に,両者の異なる点を示す。
- 脂肪酸のb-酸化と異なり,脂肪酸の生合成は細胞質で行われる。
- 脂肪酸分解の逆反応としてアセチル-CoAを直接利用するのではなく,一旦, マロニル-CoA がつくられ,CO2を放出してアセチル基が
脂肪酸の鎖に転移する。CO2はマロニル-CoAの合成に再利用される。この理由は, b-酸化の
3-オキソアシル-CoA + CoA アシル-CoA + アセチル-CoA
の平衡が大きく右に偏っているため,アセチル-CoAでは自由エネルギー的に不利で,合成には用いられないためである。
- b-酸化の補酵素(FAD,NAD +)と異なり,生合成ではペントースリン酸経路から供給されるNADP+が利用される。
- β-酸化の場合のCoAの代わりに,脂肪酸は4'-ホスホパンテテインを補因子として結合したアシルキャリアプロテイン(ACP)*のSH基
にチオエステル結合する。動物の酵素の場合,ACPは脂肪酸合成酵素(脂肪酸シンターゼ)の一部である。
* 大腸菌の酵素は脂肪酸合成酵素複合体を形成している。アシルキャリアプロテイン(ACP)は分子量10,000の小型タンパク質。
- b-酸化の場合のS(L)-3-ヒドロキシアシル-CoAに相当するものは,生合成ではR(D)-3-ヒドロキシアシル-ACPである。
- ■ 脂肪酸合成の調節
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脂肪酸の生合成はクエン酸により促進される。クエン酸がTCA回路に
使われるか,ミトコンドリア膜を出て脂肪酸の生合成に使われるかは,
イソクエン酸デヒドロゲナーゼの活性(ADPによって活性化さ
れ,ATPによって阻害される)により調節される。この酵素活性が抑制
されるとTCA回路がslow downし,クエン酸が蓄積する(→ アセチル-
CoA カルボキシラーゼの活性化,下記)。
また,ミトコンドリアを出たクエン酸は次の経路によって脂肪酸合成
に必要なNADPH2
+の約40%を供給する(残りの60%はホスホグルコン
酸回路から供給される)。
アセチル-CoA カルボキシラーゼは脂肪酸合成の最初の反応を触
媒し,また,この段階が合成の律速段階の1つである。
哺乳類と鳥類の酵素は単量体では不活性であるが,分子量4〜8百万の
ポリマーを形成し活性型になる。
単量体(プロトマー,不活性) ⇔ 重合体(ポリマー,活性)
長鎖アシル-CoAはこの平衡を左にずらし( フィードバック阻害),ク
エン酸は右にずらす。原核生物では脂肪酸はすぐにリン脂質の合成に使
われるため,脂肪酸の蓄積が起こらず,アセチル-CoA カルボキシラー
ゼはこのような制御を受けない。
動物の場合,脂肪酸合成はパルミトイル(C16)-ACPまでで終わる。
パルミトイル-ACPはパルミトイル-ACPヒドラターゼ(動物ではチオ
エステラーゼドメイン)によって加水分解されてACP部分が切り離さ
れ,パルミチン酸が生成する。
⇒
β酸化(ベータ酸化)
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