Subject   : インクレチン (incretin)

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 インクレチン (incretin)
インクレチン (incretin) は、消化管ホルモンの一種。

食後には血糖を低下させるホルモンのインスリンが膵臓から分泌されるが、糖を経口投与すると経静脈投与時よりも大きなインスリン作用が現れることが明らかになり、このことがインクレチンの概念の元となっている。その刺激は主に門脈血のブドウ糖であるとされてきたが、消化管由来因子にも分泌刺激を行う能力があるものとされてきた。
「インクレチン」と総称されている因子の中で、現在医薬品として開発されつつあるものとしてGLP-1があり、ほかにGIPについても研究が進められている。 GLP-1とGIPは2位のアラニンが共通しており、DPP-IV(CD26とその可溶性分子)により分解され失活する。血中半減期は5分程度とされ、GLP-1血中濃度を保つべくDPP-IV阻害薬の開発が進められている。CD26欠損マウスやDPP-IV欠損ラットでは耐糖能が改善しているという報告がある。GLP-1とGIPの両方の受容体を欠損させたマウス (double incretin receptor knockout, DIRKO) では経口血糖負荷試験で耐糖能の低下がみられるが腹腔内に注射した糖負荷試験では差がみられないという。

■ GLP-1
グルカゴン様ペプチド-1 (glucagon-like peptide-1) はグルカゴンと同じ遺伝子 proglucagon の配列から作られるペプチドであり、GLP-1(7-36)amide がおもに検出され、GLP-1(7-37) のものも認められる。 ブドウ糖濃度依存性インスリン分泌促進 ランゲルハンス島β細胞増殖作用 グルカゴン分泌抑制 胃排泄能抑制 中枢性食欲抑制作用 以上の作用がある。点鼻投与や注射薬の開発が進められている。副作用としてグルカゴン同様に腸管運動が抑制されるので、嘔気嘔吐が挙げられる。

■ GIP
グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド (glucose-dependent insulinotropic polypeptide) は脂肪が刺激になって十二指腸のK細胞から分泌される。スルフォニルウレア薬とGIPを同時に投与すると、インスリン濃度が増加する一方で、Cペプチドが増加しないので、肝臓などでのインスリンクリアランスに作用してインスリン濃度を保つのではないかと指摘されている。脂肪細胞の表面に発現しているGIP受容体を欠損させたマウスでは高脂肪食時にも内臓脂肪の増加がみられなかった。GIPは脂肪代謝の酵素であるLPL活性を高めるとともにインスリン存在下での脂肪細胞によるブドウ糖の取り込みを促進する。このような同化促進作用がGIP受容体欠損マウスではみられず、肥満が抑制されていると考えられる。
2型糖尿病患者にGIPを投与してもGLP-1と異なり、インスリン分泌促進効果が僅かである。マウスの解析では耐糖能異常があると、スプライシングを受け短縮したGIP受容体が生じ、作用のない短縮GIP受容体に結合した分GIPの効果が減弱するのではないかと言われている。

 ⇒ 呼吸鎖

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