Subject : プリオン (prion)
カテゴリー : 学術情報 > 生化学
プリオン (prion)
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プリオンとはタンパク質からなる感染性因子のことであり、ミスフォールドしたタンパク質がその構造を正常の構造のタンパク質に伝えることによって伝播する。他の感染性因子と異なり、DNAやRNAといった核酸は含まれていない。狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などの伝達性海綿状脳症の原因となり、これらの病気はプリオン病と呼ばれている。脳などの神経組織の構造に影響を及ぼす極めて進行が速い疾患として知られており、治療法が確立していない致死性の疾患である。
哺乳類においてプリオンとしてふるまい、狂牛病などのプリオン病の原因となるのはPrPと呼ばれる。PrPは、ヒトでは253個、マウスでは254個のアミノ酸からなるタンパク質であり、そのアミノ酸配列は高度に保存されている。 PrPは健康なヒトや動物でも発現しているタンパク質であり、脳、心臓、肝臓など多くの組織、臓器において発現が認められているが、特に脳、神経細胞において高い発現をしている。 同一のアミノ酸配列でありながら、正常プリオンタンパク質と異常プリオンタンパク質の二つの異なる高次構造をとることが知られており、異常プリオンタンパク質がプリオン病に特異的に検出される。 PrP遺伝子はヒトにおいては第20番染色体上に存在しており、2つのエクソンからなる。
<出典:>
- ■ 正常プリオンタンパク質
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正常プリオンタンパク質(cellular PrP, PrPC) は、前駆体タンパク質として翻訳される。N末端の22個のアミノ酸は小胞体への移行シグナルであり、小胞体移行後にシグナルペプチターゼによって切断される。C末端の23個のアミノ酸はグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーシグナルとして機能し、ゴルジ体での230番目のセリンへのGPIアンカー付加後に除去される。179番目と214番目のシステイン残基間にはジスルフィド結合が形成され、181番目と197番目のアスパラギンには糖鎖修飾がおこる。このような修飾ののち、主に細胞膜上のラフトと呼ばれるコレステロールやスフィンゴ脂質に富む領域に発現する。細胞膜上に発現したPrPCは、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、一部は分解されることなくリサイクルされ、一部はリソソームのタンパク質分解酵素によって分解される。
PrPCの機能についてはわかっていないことが多く、今後明らかにされると思われる。最初に報告されたプリオン遺伝子(PRNP)欠損(PrP-/-)マウスは何ら行動異常や神経異常を示さないことが報告されたが、その後作成された欠損マウスでは老齢期の行動異常や小脳プルキンエ細胞の変性死などの異常が報告されている[6]。PrPはN末端に繰り返し配列を持っており、この配列を介して銅イオンと結合し、抗酸化作用に関係しているとの報告がある。また、アポトーシスや長期増強への関与なども報告されている。
- ■ 異常プリオンタンパク質
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異常プリオンタンパク質(scrapie PrP:PrPSc) は、PrPCが構造変化を起こしたものであり、プリオン病に特異的に検出される。PrPScは、PrPCと比べてβシート構造に富んだ構造をとっていることが明らかになってきている。また、PrPCが界面活性剤に可溶性を示し、プロテアーゼKなどのタンパク質分解酵素によって容易に分解されるのに対し、PrPScは、界面活性剤に難溶性であり、タンパク質分解酵素にも抵抗性を示す。 PrPScの凝集体はアミロイド線維とよばれる構造をとっており、PrPのアミロイド線維はPrP単量体が結合する鋳型として働くことができ、PrPの単量体がPrPのアミロイド線維にとりこまれることによってPrPのアミロイドは伸長することができる。また、毒性・感染力の強いPrPScはアミロイドよりもむしろオリゴマーであるという主張もある。 ミスフォールドしたPrPが健康な個体に感染すると、健康な個体に存在していた正常な構造のPrPがミスフォールドしたPrPへの構造変換が起きる。つまりミスフォールドしたPrPは他のPrPの構造変換を引き起こす鋳型としてふるまい、可溶性の正常型タンパク質がアミロイドに重合していくことによって、構造変化がおこり異常型タンパク質の構造へと変化すると考えられている。 アミロイドは物理的にも化学的にも非常に安定な構造であり、このことがプリオン病の封じ込めを困難にしていると考えられる。
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