Subject   : 甲状腺ホルモン (サイロキシン)

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 甲状腺ホルモン (thyroid hormone)
甲状腺ホルモン (thyroid hormone) とは、 甲状腺から分泌され、一般に全身の細胞に作用して 細胞の代謝率を上昇させる働きをもつ、アミノ酸誘導体のホルモンのこと。トリヨードサイロニン(トリヨードチロニン、triiodothyronin、略称T3)とサイロキシン(チロキシン、thyroxin、略称T4)の2種類の化合物が甲状腺ホルモンとして知られ、それらの違いは、ホルモン1分子中のヨードの数である。生理活性は、T3の方が強いが、血中を循環する甲状腺ホルモンのほとんどはT4である。甲状腺からはT3、T4の他に、 カルシトニンと呼ばれる別の生理作用を持つ ホルモンも分泌されるが、これは甲状腺ホルモンとは呼ばない。

甲状腺ホルモンは、甲状腺の甲状腺濾胞の壁をつくっている濾胞上皮細胞で合成・分泌される。甲状腺ホルモンの分泌様式は、細胞外にホルモンの前駆体を貯留するという点で非常に独特である。
甲状腺ホルモンは、アミノ酸のチロシンが2つ縮合し、側鎖の芳香環上に3〜4個のヨード(ヨウ素)が付加したものであるが、チロシンのヨード化は、細胞内の遊離チロシンでは起こらない。濾胞上皮細胞ではサイログロブリン (チログロブリン、thyroglobulin)と呼ばれる巨大な糖蛋白質が合成され、濾胞の内腔にコロイドとして蓄積する。一方、この細胞では血中からヨードを取り込み、これも濾胞内に送り込む。濾胞内ではサイログロブリンを構成するチロシン残基ごとにヨードが1〜2個付加され、ヨード化チロシン残基どうしが2つずつ縮合(エーテル重合)する。サイログロブリンは、濾胞の内腔から再び濾胞上皮細胞に取り込まれ、リソソームで消化を受け、サイログロブリン本体からヨード化されたチロシン残基が切り離される。このうち、ヨードの付加された数が3個か4個のものが甲状腺ホルモンとして血中に放出され、1個または2個のものは、分解され再利用される。甲状腺ホルモンのうち、ヨード付加が3個のものがT3、4個のものがT4である。生理活性はT4よりもT3のほうが数倍高い。

甲状腺ホルモンの分泌量は、いくつものホルモンによって調節されている。代表的なのは、下垂体前葉から分泌される 甲状腺刺激ホルモン (TSH、サイロトロピン) である。甲状腺刺激ホルモンは、甲状腺濾胞内に蓄積されたサイログロブリンが濾胞上皮細胞内へ再吸収されるのを促進する。サイログロブリンは、細胞内のリソソームで消化を受け、甲状腺ホルモン(T3またはT4)が遊離し、濾胞の外側に放出され、これが毛細血管より血中に入り全身に還流する。濾胞上皮細胞内で遊離した甲状腺ホルモンは、そのあと細胞内で蓄積されないため、甲状腺刺激ホルモンの刺激により、血中への分泌量が増加する。
甲状腺刺激ホルモンの分泌量は、間脳の視床下部から放出される 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン (TRH) によって 調節される。

甲状腺ホルモンの作用は、甲状腺ホルモン受容体蛋白質を介して起こると考えられている。甲状腺ホルモン受容体は、全身のほとんどの細胞に発現しており、事実上、甲状腺ホルモンの標的器官は全身のすべての細胞といえる。甲状腺ホルモン受容体は、核内受容体であり、ホルモンと受容体が結合すると、その複合体は核内DNAに結合し、特定のRNAの転写活性を調節する。 より、血中への分泌量が増加する。

甲状腺ホルモンは、サケ科などの魚類では海への降下時、海水適応を起こさせたり、両生類では、幼生から成体への変態を促進させ、鳥類では、季節ごとの換羽を起こしたりするホルモンとしても知られる。

甲状腺ホルモンに関連する疾患 甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることにより、バセドウ病になる。バセドウ病とは手足の振るえ、眼球突出、動悸、甲状腺腫脹、多汗などをおこす。反対に不足して起こるものにはクレチン病があり、発育不全、無感覚、無気力、知能障害などを生じる。成人では粘膜水腫がある。

 ⇒ ホルモンがつくられる部位と機能

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